ゼスト Tech Blog

ゼストは「護りたい。その想いを護る。」をミッションに、在宅医療・介護業界向けのSaaSを開発しています。

BtoBバーティカルSaaSにおいて顧客解像度を爆上げできた5つのトレーニング

こんにちは。「護りたい。その想いを護る。」というミッションを掲げている株式会社ゼストプロダクトマネジメントを担当している川添です。

私は2022年春に副業メンバーとしてゼストに参画し、ちょうど1年前の8月に正式ジョインしました。それまではディレクターやプランナーとしてBtoCのデジタルクリエイティブに携わっていた期間が長く、まさか自分が在宅医療・介護業界に関わるとは思ってもみませんでした。

今回はそんな業界初心者だった私が顧客について理解を深め、PdMとしてプロダクトの舵取りをするための判断力を培ううえで効果的だったトレーニングを紹介したいと思います。バーティカルSaaSに関わる方の参考になれば幸いです。

1. 顧客の声を聞く

「顧客の声を聞く」というと、真っ先に思い浮かぶのは顧客インタビューではないでしょうか。

プランナー・ディレクター時代にもネットリサーチやグループインタビュー、デプス調査などの経験はあったのですが、簡単に共感できるBtoCと異なり、BtoBのインタビューではまず業界を知らなければ仮説も立てられず、聞くべきこともわかりません。

そこで、最初から大勢を対象に話を聞くのではなく、ひとりひとりにじっくりと向き合い深掘りする「N1分析」に注力しました。商談に同席させてもらったり、顧客と利用者宅まで同行して実際に看護する様子を見学させていただいたりもしました。

特に気をつけていたのは、とにかく「なぜ?」を引き出すこと。考えや感想ではなく本当の困りごとは何か。どういう課題や解決方法に感情が揺れ動くのか。

ただ、N1分析は「時間がかかる」「視野が狭くなる」といった懸念もあります。そのため、まず短時間で幅広くキャッチアップするために、

  • 営業メンバーの商談動画をどんどん共有してもらう
  • 営業メンバーを質問攻めにする(とにかく「なぜ?」を聞きまくる)
  • これまでに寄せられたプロダクトへの問い合わせや要望を読み込む

といったこともおこないました。その際にも漫然と取り組むのではなく、毎回ひとつでも仮説やヒアリングテーマを持って臨むようにしていました。

2. 社内メンバーに業界・顧客について伝える

在宅医療・介護業界は一見とてもわかりやすいサービスです。介護?ヘルパーさんがいろいろ助けてくれるんでしょう?医療?お医者さんや看護師さんが家に来て様子を見てくれるんでしょう?と。だからこそ、慎重に深掘りしていかなければ「何がわからないかわからず、なんとなくわかったような気がする」錯覚に陥ってしまいます。PdMとしては致命的です。

そうならないために、と思っていたわけではないのですが、結果的によかったなと思う取り組みがありました。「開発対象のドメインについて深く理解しながら開発したい」という想いを胸にジョインしてくれたtechチームのメンバーに向けて、「在宅医療・介護業界の勉強会」や「顧客の状況を疑似体験するワークショップ」を開催したのです。

参加してくれたメンバー以上に、PdMである私自身のためになる機会だったように思います。これまでに見聞きしてきた顧客の課題感や置かれている状況を「人に伝える」ために矛盾なく整理し自分の言葉として伝えることで、「ああ、やっと自分のものにしたな」という手応えがありました。

3. Twitterで業界のリアルな声を知る

在宅医療・介護業界は制度も仕組みも複雑で一筋縄ではいきません。いえ、一見シンプルに整備されているかのように見えるのですが、実は大きな落とし穴があります。

それは、サービスを必要とする利用者の事情が千差万別なために「介護保険制度」「医療保険制度」といったようなルールだけでカバーされない部分や解釈の余地が多々あるということ。書籍や厚労省のサイトに書かれた情報は正しいのですが、実態と実情に関しては抜け落ちている(現場に委ねている)ことも多いのです。

そこで、やってよかったのが「Twitter」です。Twitterには「こういう時にとても困る」「こんなことがあって大変だった」といったツイートが溢れています。下手にインタビューをするよりも、生々しく時に矛盾をはらむリアルな気持ちがわかる場合があります。最近だと、Threadsでも警戒心なく本音を吐露している人たちがいるかもしれません。Instagramで投稿している「理想の姿」とのギャップに着目する方法もあると思います。

また、お客様個人とSNSで繋がっておくと、次に顧客インタビューなどでお話する時により深いヒアリングができる関係性を築けるメリットもあります。

4. プロダクトバックログを運用する

具体的な実務に近い部分でトレーニング効果があったのは、日々挙がってくる改善要望や不具合に対して優先順位をつけるというものでした。ちょうどその頃、弊社はtechチームが拡大する手前の時期だったこともあって、限られたリソースで何をすべきかの判断を間違えられない状況でした。影響範囲と緊急度、優先度、ビジネスインパクトはどうなるのかを洗い出し、営業に現場の温度感を確かめて順位を決定していく中で、プロダクトを取り巻く顧客の実務や課題が見えてきました。

その後、RICEスコアを取り入れることになりましたが、「今、何を優先すべきか?」といった問いが完全になくなるわけではありません。

5. 繋がりを活かす

N1分析にせよ、プロダクトの商談にせよ、プロダクトを日々運用する立場の方と対面させていただくケースが多いのですが、決済権を持つ方や経営層がまったく同じ思考で動いているかといえばそうではありません。現場の従業員も同様です。そのため、ゼストでは業界の繋がりを活かして様々な立場の方にヒアリングをおこなっています。

また、自分たちのサービス、プロダクト単体で業界のすべての業務をカバーできるわけではないので、業界で必要とされる他のSaaS企業との繋がりも重要になります。たとえばゼストは在宅医療・介護業界で電子カルテ・レセプトを提供する株式会社エス・エム・エス社と業務提携をおこない、顧客理解に繋げています。自社だけで限界があることを、自社で閉じてしまわずに他社と協業していくことも重要です。

最近は、在宅医療・介護業界で働いていた人を採用する動きもあります。現場の課題や外からは見えない動きなど、学ぶべきことが多くあります。

まとめ

いかがだったでしょうか?

顧客解像度を爆上げするには、地道なトレーニングが必要です。私の場合、techチームに自分の言葉で業界・顧客について語れるようになるまでに4か月〜半年ほどかかりました。これは様々な実務と兼務していたからとも言えますが、実務を並行しなければ理解できない部分も多かったので今振り返ってみてもこれが最速だったかな…と思います。

どれくらいのスピードで顧客理解が進むかは人によりますが、本人も会社も「ある程度の時間を投資する」という覚悟が必要です。顧客理解をないがしろにするのもよくないし、顧客理解がまだ不十分だからと何もアクションを起こさないのもよくないので、顧客に深く踏み込みつつも小さく開発してフィードバックを得る、そういったスタンスが重要だと考えています。

在宅医療・介護業界はまだまだたくさんの伸びしろがあります。そして、この業界の課題は地域で暮らす私たちにとって非常に関係の深いものです。社会を変えたい、多くの人に貢献したいという想いを大切に、これからも進化を続けていきたいです。